その瞬間、私は意識を失ったらしい。
その交差点は兵庫県警のモニターカメラが設置してある。もちろん事故の一部始終を記録していた。そして何より警察関係と救急車の現地へ来るのがとても早かった。もちろん家族もだった。そうなのです。妻の車にはトヨタの最新鋭の次世代G-ブックシステムが付いていたのでした。
エアーバックが開くと、ナビの自動通報システムが、近くの警察と消防署にメールで自動通報、そしてもちろん家のパソコンと皮肉にも事故の当事者になった夫一郎の携帯電話にも緊急メールが自動発信されていたのだ。さらにすごいのには、ナビに装着されているドライブカメラが、事故の写真を送信してきたのだ。さらに続いて車を購入したトヨタのサービス本部にも事故発生が送られている。
　一郎はショックによる一時的な意識不明だった。外傷はほとんどないのだが全治1週間の診断。妻弘子も家族もほっとした。一郎は意識を失っているときに夢を見た。それは事故を起こして現場で立ち往生してたら、警察よりも真っ先に保険会社の人が来たのだった。それもトヨタホールディング損害保険ジャパネット高田の方だった。そんな、トヨタとジャパネットは提携しているのか。そして車両の損害状況をパソコンに取り入れたと思ったら、なんと事故前から交差点に侵入、衝突までのシュミレーション動画をその場で作ってしまったのだった。消防の救急車のサイレンが聞こえ始めた。幸い2台の運転者(私とダンプの2人)に怪我はなかった。われわれに動画を見せて「どうですか、こんな現状だったですよね」と。2人はうなずきながら動画を何回も見ていた。そうしたらその保険の人は「それでは、これで2人とも事故内容は納得されたということで、電子認証お願いします」と。はぁ、なんじゃそれ。当事者の2人にはまだよく理解できなかった。保険の方の話はこうだ。「現在では事故処理も一部民間委託になっています。ですからこの事故ならば警察に代わる民間事故処理会社がまもなく来るでしょう。事故処理は彼らがします。ここは警察のカメラが付いていますので、警察に出頭しての調書作成になります。私は保険処理を円滑に進める為に、ダンプ側の保険会社にもこの動画を提出します。みなさんはこれで了解した旨のサインの変わりに電子認証をお願いしているのです。どうかお二人とも住民基本台帳カードを提示してください」・・・・・
　住民？カードカード、そんなんもっていたかな？　転勤ばかりしているもので姫路市のカードなんてまだ持ってないで・・・・なんてあわててたら、一郎は夢から覚めたのだった。
　なんだ夢だったのか。それにしてもおれは損害保険会社に勤務しているのだぞ。どうして事故処理ごときが分からなくてウロウロとしていたのだろう。気がついて正気に返ってみたら本当に無知な自分を恥ずかしくも思ったのだった。しかし勤続２５年、そういえば事故センター勤務は一度も無い。本社勤務で新商品の開発だとか、あとはモーターチャンネル一筋で、全国の自動車整備業いわゆる町の自動車修理工場の営業担当ばかりやっている。
　一通り落ち着きをとりもどしたら、そこは病室だった。あれまっ、夢先橋が見えるでは無いか。この病院は、日本赤十字トヨタ姫路病院だった。トヨタは２０１１年に日本赤十字と提携、日赤の病院運営の赤字を全額補填するという驚きの提携で、日赤病院までグループに加えたのだった。
「そうですよパパ、あそこの橋の信号で事故したのですよ。怪我もなかったからいいようなものの、私の車は大破ですよ。反省してね、あの橋を見ながら」弘子もきついことを言うてはないか。橋を見ながら反省ってか。それも夢の先の橋だと。そんな名前が一郎に何を思い立たせたのかまた眠ってしまったのだった。
つづく

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